xr0038@はちろく

2008-07-10

天文学科談話会 その7

02:19

談話会メモ.本田充彦さん「原始惑星円盤における H2O 氷ダストの検出」

原始惑星円盤

ガスが重力収縮を起こして星を形成する際,その周囲に円盤状にダストを従えることが知られている.これを原始惑星円盤,星周円盤と呼び,惑星系星に大きく関与している.このダストはその温度や中心星からの輻射によってその組成が変わってくる.中心に近いほど岩石質に,離れるほど氷質のダストに近くなる.このようにダストの組成が大きく変わる半径を雪線 (snow line) と呼ぶ.雪線の位置を決定することは惑星系星のモデルを制限する上で非常に大切である.

検出は困難

先行研究では雪線の検出はおろか惑星円盤内に氷が存在することを示す結果もほとんど無い.氷を検出するためには 44.62μm の熱放射か 3μm の吸収線が用いられるが,前者は遠赤外なので分散,空間分解について満足のいく性能を達成できる検出器が存在せず,一方後者は吸収線であるため銀河が横を向いて (edge-on) いなければ使用できず氷の空間的分布を見ることは不可能である.

熱放射でも吸収線でもない

そこで本田さんたちが注目したのが散乱光.ダストの散乱断面積も波長に依存するため,散乱光を分光することでダストの性質を探ることは可能である(吸収が大きければ散乱は少なくなる).シミュレーションからは散乱光による観測でも有意な結果を得られるだろうと予想されている.今回は 3 μm の散乱光に注目し,吸収波長とその両側で撮像を行って H2O による有意な吸収が存在するかどうかを議論した.


撮影した画像の校正を行った(結構怪しい校正してた)のち,それぞれの波長での強度を比較した結果, 3 μm にてまあまあの強度で吸収が確認された.しかしながら,"コロナグラフ"という,明るすぎる中心星をマスクしてその周囲のダストを撮影する,装置を用いているため中心星の近くに分布するダストは観測できない.今回は中心星から 140 AU (地球から太陽までの距離が 1 AU) 以上の範囲しか観測できていない.雪線を探るためにはもっと内側の観測が望まれる(大雑把に 50 AU 程度?と推定される).

また,カラー(異なる波長での強度比)を用いることで分布するダストの大きさを見積もることもおこなった.今回の結果からは大体 1 μm 程度の大きさであると推定された.この結果は先行研究でのシミュレーションとほぼコンシステントである.

まとめ

原始惑星円盤に存在する氷を 3 色(波長)の撮像を用いて観測するという手法の提案をおこなった.実際に観測してみた結果,そこそこ使えそうなのでこれから他の円盤銀河にも応用を行う.ただし,まだまだ荒削りの部分が多く non-isotropic scattering の考察が抜けていたり,雪線を観測するためにはより内側に迫るための方法を考え出さなければならないだろう.

2008-07-07

天文学科 談話会 その6

01:13

一週間遅れですが談話会メモ.小林正和さんで「 Lyman Alpha Emitter の観測と理論」.

Lyman Alpha Emitter(LAE) とは?

Lyman Alpha 線を出す天体のこと...っていってもこれだけではさっぱりなのでもう少し詳しく.宇宙がどのように形成されてきたのかについて,現在では Cold Dark Matter(CDM) モデルによって説明がなされている.要約すると, Dark Matter の重力によって集められたガスが星になり,銀河になり今の宇宙ができたというお話.ここで重要なのは,宇宙が誕生してからすぐに銀河や星が生まれたのではなく,年月を経てガスのかたまりから星へ,星が集まって銀河へ,銀河が集まって銀河団へと小さなスケールから大きなスケールへと進化が進んだということ.宇宙誕生からしばらくの間は(観測できるような)天体が存在しない Dark Age と呼ばれる時代があった.

Lyman Alpha 線とは水素原子の再結合線とも呼ばれる光で,電離した水素が再び電子を取り込む際に放出されることが知られている.つまり, Lyman Alpha 線が観測されればそこには水素を電離させるに十分なほど強力な光が存在している,すなわち星が誕生している,と言うことができる. Lyman Alpha 線を放出する天体に注目することで,宇宙に星が生まれた時代を探ることができる.

しかしながら, LAE の特徴についてはまだあまりよく分かっていない. Lyman Alpha 線がどの程度の強さで検出されるのかは銀河の内部構造や組成に大きく依存する.現在,ようやく統計的な性質が分かってきた程度.どうやら z~6 付近(宇宙年齢が今の 1/7 ,20 億年程度)で Lyman Alpha 線の強度が落ち始めるようなので,そのあたりに宇宙で大規模な星の誕生があったと予想される.

LAE に関する理論

先述の通り, Lyman Alpha 線の観測には銀河の内部構造が大きく関わってくる.銀河中に存在するダストは Lyman Alpha 線の波長において散乱断面積(scattering cross-section)が大きいため強い減光を受ける.平均自由行程も 1 AU 程度(地球から太陽まで)と銀河のサイズに比べて非常に小さいため星から発せられた Lyman Alpha 線がどの程度銀河を突き抜けることができるかを議論することは難しい.より現実に沿った物理モデルを構築してシミュレーションを行う必要がある.

物理モデルには銀河の階層的な構造形成を説明できることが必要であり,また Lyman Alpha 線がどの程度銀河を抜けられるのかといったことがパラメタとして要求される.特に後者は重要であるにもかかわらず先行研究ではほとんど行われていなかった.そこで,小林さんらのグループでは理論と観測の両方に合致するような理論モデルを考案している.

LAE モデル

星が初めて誕生した付近だけではなく宇宙形成全体を通して説明できるモデルが要求される.そのため,骨格となるモデルとして三鷹モデルと呼ばれる近傍銀河について比較的よく記述できるものを採用,ここに Lyman Alpha 線を吸収するダストの分布や Lyman Alpha 線の離脱率(銀河から抜け出る割合),銀河風によるダストのアウトフローの効果などをパラメタとして導入し,観測によって得られたデータに対しフィッティングを行った.導入したパラメタの中では銀河風による影響がかなり強く効いていたらしい.また,ダストによる吸収はほとんどないという結果もおもしろい.ダストが局所的に分布しているため減光を受けるというよりはその領域で反射を起こすという現象が考えられるという.

さいごに

より現実に沿った物理モデルによるシミュレーションによりいくつかのおもしろい結果が得られたが,現時点では LAE モデルはまだ完成ではなく,これから様々な観測結果と合わせて調整をしていかなければならないと思う.観測精度の向上により,もっと詳細なデータが得られたときにこのモデルがどこまで耐えられるのか,個人的にちょっと楽しみである.

2008-06-17

天文学科 談話会 その5

| 01:35

懲りずに談話会メモ.今回は川中さんによる「BH 降着流からの X-ray 放射モデル」について.

概略

ブラックホールとは言わずもがな高密度大質量の天体のこと.光すら脱出できない...なんて物騒な話もよく言われますが,重い天体故周囲の物質を引き寄せます.そんなわけで,ブラックホールの周囲には塵などが集まってできる disk と呼ばれる構造が存在します.これらは X 線を放射するほどの高温であり,それを観測することでブラックホールの周囲の状況を観測することができます.また,disk の周囲にはもっと高温のガス(コロナ)が広がっていると考えられています(disk-corona model).

disk-corona model

ブラックホールからやってくる光をスペクトル分光にかけると大きくわけて 2 つの成分― 1.高エネルギー X 線による連続成分, 2.Fe による輝線スペクトル―が観測されます.高エネルギーの X 線を放出するためにはかなりの高温が要求されます(10億度程度),しかし観測された Fe による輝線が存在するためには温度は10万度程度でなければなりません( Feプラズマ化してしまう).そのため,ブラックホールの周囲には高温と低温, 2 つの異なる領域が存在している必要があります.このことは disk-corona model を用いて説明することができます.

低温,高密度な disk (高密度なため放射は主にここから出ます)と高温,稀薄な corona を仮定します.disk から放出された soft X-ray (比較的エネルギーの低い X 線)が corona を構成する粒子と(逆)コンプトン散乱することによって hard X-ray (高エネルギー)へと変化します.これが連続成分になります.また,散乱して高エネルギーになった X 線が disk 中に存在する Fe 原子を叩くことによって輝線スペクトルが生じます.

Fe line spectrum

実際は disk の回転によるドップラー効果を受けて Fe による輝線スペクトルはある程度の幅を持って観測されます.この効果はブラックホールに近づくほど相対論的補正を受けることになり,特徴的なかたちをすることが予想されます(実際にそのような形状で観測されている).この形状は disk の空間配置に大きく依存するため, Fe 輝線スペクトルに注目することによってブラックホールの周囲の状況にかなり制限を設けることができます.

simulation

これを受けて,川中さんたちはいくつかの仮定(温度平衡,密度平衡的なもの)と disk-corona model を用いて計算を行うことで観測されたスペクトルの再現を試みました.仮定した物理的プロセスを実際に追った計算は他の団体では行われておらず,今回が初の試みと言うことになるそうです.

結果

各パラメタをある程度現実的にあり得そうな範囲で動かすことにより,スペクトルのプロファイルを再現することに成功しました.とはいえ,いくつかのパラメタに自由度が残ってしまうことも分かりました.逆に,この結果は輝線スペクトルの形状だけではそれらのパラメタ(ブラックホールのスピンなど)を決定することは難しいということも示唆しています.

まとめ

物理プロセスを正確に追ったシミュレーションによって実際のプロファイルを再現できたことより,仮定した物理モデルの正当性がある程度示されたと言えます.また,観測によってどのパラメタが制限可能(不可能)かについても興味深い結果が得られました.

しかし,実際の観測では X 線の強度(それも連続成分のみ)が時間変動するなど,この物理モデルでは説明できない現象も知られています.この問題を解決すべく,より詳細な仮定を用いてシミュレーションを実行中とのことですが,今回は時間の都合上その部分については触れられませんでした.

ブラックホール周辺の物理は(も)まだまだ分かっていないことが多くおもしろそうです.日本は高エネルギーでの観測に関してかなりアドバンテージを持っているらしいので理論/観測ともに頑張って欲しいです.

2008-06-05

天文学科 談話会 その4

| 11:26

行ってびっくり,今回は女性だった.談話会メモ.

話者は江草芙美さん.「近傍銀河における星形成時間とパターン速度の決定」


Starformation Timescale

銀河中で星ができるまでの時間は,実は理論からも観測からもよく分かっていない.とりあえず力学的にガスが重力収縮するまでの時間を採用したり,星形成の理論モデルからの推定などが用いられる.そこに,もう 1 つ観測から制限を加えようというのが今回のモチベーション

Pattern Velocity

銀河の回転は剛体回転ではない.実際,ドップラーシフトなどを利用して銀河を構成する星の回転速度を観測すると差動回転であることが確認できる.しかしながら,単純に差動回転を仮定してしまうと渦巻き銀河がかなり早い時間(~1 Gyr)で巻き込みを起こしてしまい,宇宙に渦巻き銀河が大量に存在することを説明できなくなってしまう.

これを解決するものが Pattern Velocity の考え方で,渦巻き銀河の腕として明るく見えている部分と実際の星は違う速度で回転しているというもの.銀河の腕は天体が密集することで明るく光っていおり,この回転を密度波の伝播と考えることで腕の回転と天体の回転を別個に考えることができる.この密度波の伝搬速度が Pattern Velocity である.

この Pattern Velocity は主に天体がつくる重力ポテンシャルの回転を表すものと考えられており,ポテンシャルが発達した部分では密度が高くなることが知られているため,この回転が銀河の腕の回転を表しているということと矛盾しない.


Offset Method

今回 Hαと CO の分布を輝線によって観測した.Hαは主に銀河の腕の位置をトレース,CO は物質の分布をトレースしている.このズレを観測することによって星形成時間を推定する.具体的には同じ銀河でこのズレをいくつか測定して直線によってフィットする.パターン速度(剛体回転と仮定)と星形成時間が一定だと仮定すると

\theta = (\Omega - \Omega_{P})t_{SF}

となる.星形成時間はt_{SF}でパターン角速度(一定)は\Omega_{p}で表されている.\theta銀河中心から見た角度のズレで,\Omegaは物質の角速度(場所に依存),以上 2 つが観測量である.フィットした直線の傾きと\Omega切片がそれぞれ星形成時間と Pattern Velocity に相当する.

Discussion

12 この銀河に対してこの手法を適用,星形成時間と Pattern Velocity を推定した.しかしながら,実際に活用できたデータは 3/12 であり結果はあまり芳しくはなかった.これは観測の精度がまだ十分ではないためというのもあるが,この方法を適用できる銀河にはかなり制限があることの方が決定的だったような印象を受けた.得られた Pattern Velocity と星形成時間は他の手法で計算された値とまずまずコンシステントではあったが,議論に沿ったデータだけを抜き出した感も否めない.

しかしながら,観測に基づいた新しい手法を提示したという点ではおもしろいと思う.(この方法に正当性があればの話だが)この手法が有効な銀河をもっと絞り込んだり,この手法を逆に使って星形成時間や Pattern Velocity の動経方向による変化を推定したりしてもおもしろいかもしれない.

2008-06-01

天文学科 談話会 その3

| 01:39

談話会メモ.今回は数物連携機構 IPMU の前田さん.「可視・近赤外で見る超新星の形状」

超新星爆発は銀河進化・宇宙の科学進化・高エネルギー現象・宇宙論と関わる重要なトピックでありながら理論的にはあまりよく分かっていない.厳密に組み立てたモデルによってシミュレーションを行った結果爆発しませんでした,なんて笑えない話もあったりする.最近では爆発現象が球対称ではなく,この球対称からのズレが爆発に大きく関わってきているということが明らかになってきた.ここで,観測によって超新星爆発のモデル作成(形状)に何らかの制限を与えようではないのかというのが今回の話.

超新星は一年にどれくらい見つかっているのか

大体 500 個/yr くらい.しかしながらほとんどが 10 Mpc 以上の遠距離にあるものであり,赤方変位以外の詳細な測定がなされるものはわずかに過ぎない.ちなみにほぼ点源なので空間的に分解することは非情に難しい.

どうやって形状に制限を付けるのか

超新星はほぼ点源であり形状を見分けることは難しい.しかしながら,超新星は時間と共に高速膨張し密度が劇的に減少する.その結果 optically thin になるために視線方向の奥の方からの光も得ることができる.これを用いて爆発の様子を探ることが可能になる.爆発から約 1 年後の超新星を観測(後期観測)し,スペクトル分光を行った.酸素による輝線に注目する.爆発が球対称であれば,どの超新星も同じようなドップラーシフトを示すはずであるが,爆発に非対称性がある場合,スペクトルの形状に系統的な違いが現れてくるはずである.

今回は双方向にジェットを噴出するようなモデルを考えて測定結果と比較した.測定したのは typeIb/c の超新星 15 個であり,ひとまず超新星爆発は球対称的ではないということはほぼ確実であると分かった.この結果に最も適したモデルが,今考えられている超新星のモデルよりもかなり球対称からのズレが大きかったことが興味深い.より多くの測定を行うことにより,モデルにもっと制限が加えられるのではないかと期待できるだろう.また, typeIa の超新星に関しても同様の観測が行われた.こちらは 3 天体と少なかったためにあまり良い結果は得られなかったが,超新星の爆発が off-center なものであると示唆する可能性もありおもしろい.

まとめ

超新星の爆発が非球対称であることはほぼ確実.Ia 型に関してはサンプルが少ないので何とも言えないが恐らくそうだろう.Ib/c 型と共にサンプル数を増やすことで理論モデルにより制限を加えることができるだろう.また,今回は超新星の形状を探るにあたり後期観測(late phase)が有力だと分かったことも大切.統計スペクトルを用いることによって,点にしか見えない超新星の形状を推定できたことは大きな業績だと思う.